子どもの遊び・運動・スポーツ

子どもの遊び・運動・スポーツ

【編著者】
 浅見 俊雄 東京大学名誉教授・日本大学名誉教授
 福永 哲夫 鹿屋体育大学学長・東京大学名誉教授
【著者】
 佐々木玲子 慶應義塾大学体育研究所教授
 中村和彦 山梨大学教育人間科学部教授
 福林 徹 早稲田大学スポーツ科学学術院教授
 森 司朗 鹿屋体育大学教授
【ISBN】 978-4-902109-36-8
【発行日】 2015年1月
【価格】 定価2,600円+税

 
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【序にかえて】

まずはこの本を作成するまでの経緯を簡単に述べておきたい。

話は1970(昭和45)年12月に文部省(当時)の所管する財団として設立された「(財)体育科学センター」に始まる。その寄付行為には「国民の健康と体力に関する基礎的および応用的な研究調査を推進するとともに、その成果の活用をはかり、もって国民各層の健康の増進と体力の向上に寄与することを目的とする。」と書かれている。

その事業のひとつとして「運動処方専門委員会」が作られ、鈴木慎二郎を委員長に、猪飼道夫、石河利寛、広田公一、松井秀治、朝比奈一雄、小野三嗣らのそうそうたる大御所に交じって、浅見俊雄、青木純一郎、加賀谷熈彦、金子公宥らの新制大学卒の若手研究者も加わり、運動による健康づくりのための研究が進められていった。さらにその後メンバーに宮下充正、福永哲夫、加賀谷淳子らも加わって、実質的な研究はこれらの若手研究者によって進められ、その毎年の研究成果は研究誌「体育科学」に掲載されていった。

さらにまとまった研究成果を運動の実践に広く役立てていただくことを目的として、「体育科学センター方式 健康づくり運動カルテ」(講談社、1976)、「体育科学センター方式 スポーツによる健康づくり運動カルテ」(講談社、1983)、「体育科学センター方式 小学生の体力つくりープログラム作成の科学的基礎」(第一法規、1987)を出版した。さらにこの後「中学生の体力つくり」を出版することが予定されていた。

これらの書籍の出版に当たっては、広田公一が編集委員長、浅見、青木、加賀谷熈が編集委員として、執筆と編集作業を行い、「中学生の体力づくり」についてもこのメンバーを中心に作業することが予定されていた。

ところが、長年の懸案であった国立の体育・スポーツに関する研究機関の設置が1988(昭和63)年から具体的に動き出し、紆余曲折はあったが「国立スポーツ科学センター JISS」の名称で、日本体育・学校健康センター(現日本スポーツ振興センター)内に設置することが決まり、1997(平成9)年から建築工事が始まり、2001年には機関設置されて開所することとなった。これを受けて、2000(平成12)年に体育科学センターは廃止されることになり、「体育科学」の刊行も31巻(2002年)をもって終わりとなった。

この時に「中学生の体力づくり」については、廃止後に出版することになり、その資金として150万円が加賀谷熈彦に託された。しかしかつての若手も、このころは3人とも要職にあったこともあって、なかなかスタートが切れない状態にあった。こうした中で、加賀谷が病に倒れ、その資金と出版を青木に託して2007年1月7日に死去した。

その青木も2009年4月24日に病のため死去した。その時は大学院以来の加賀谷熈彦のよき研究、仕事仲間で愛妻だった加賀谷淳子に、青木が後事を託したが、その淳子も病を得て2011年7月29日に死去した。加賀谷淳子は生前に余命の短いことを予感して、市村出版社長の市村近に出版資金を渡し、浅見や福永と一緒にこの本の出版を進めるよう依頼した。

市村は「体育科学」の作成と発行を行っていた(株)杏林書院の社員として、ずっと「体育科学」の作成の実務にかかわっていたし、多くの体育・スポーツ関係の雑誌、書籍の出版などで、上記の人たちとは長年の友人であった。そして杏林書院を退職後、独立して出版社を立ち上げ、多くの体育、健康、スポーツ科学関係の図書を出版していた。こうしたことからの市村への依頼であった。

また、市村はこの本について、青木、加賀谷夫妻が生前に浅見や福永にも協力を依頼していることを承知していた。また私も亡くなられた3人からは、何度も出版を立ち上げることへの協力を求められていた。

私もずっと体育科学センターの仕事には中心的にかかわっていたし、当然この本についても責任の一端はあると認識していたので、私より若いこの3人に相次いで先立たれるたびに、霊前に、この出版には残されている人たちと一緒に責任を果たすことを約束していたのだが、約束を果たせないうちに、前記の3冊で編集委員を務めた中では最年長の私が最後に残ってしまった。

しかし、ぼやいていても仕方がないし、まだ体も頭も何とか機能しているので、この仕事に取り掛からねばと決意して、福永哲夫、それに市村近とも相談を始めて、企画を立ち上げたのであった。

そして内容も、「体育科学センター」が閉所されてから10年以上たっているし、その間に発育期というか子どもの遊びや運動、スポーツに係る環境もその実施状況もそして子どもの体力の状況も変わり、また関連する科学的な知見や経験知の質も量も大きく変わっているので、初めに想定されていた前書「小学生の体力つくり」の中学生版という考え方ではなく、発育発達期にある幼児から中学生程度までを対象とした、子どもの遊び、運動やスポーツの考え方やあり方、そして現状についての具体的な課題やその対応策などの全般について、これまでの科学的、経験的な知見を総合して、多くの人に読んでいただいて実践につないでいただけるような内容の本にしたいということになった。

ということで、著者には私と福永以外は「体育科学センター」の仕事にはかかわっていなかった現在この分野の第一線で活躍している研究者に分担していただいて、ようやく出版するにいたったのであった。

執筆前に執筆者が集まって、分担を十分議論する機会が持てなかったことから、内容に一部重複があったり、論旨が必ずしも一致していないところがあるのはお許しいただきたい。とくに、子どもの運動時間の減少や、体力・運動能力の低下、基本的な運動の習熟度の遅れの問題については、複数の著者が取り上げている。こうした部分については、子どもの遊び・運動・スポーツについて考えるときには、それだけ重要な課題になっていることなのだと理解していただいて、そうした重複をお許しいただきたい。

本書の執筆、編集中に大変うれしいニュースが飛び込んできた。2020年のオリンピック・パラリンピック大会の会場が東京に決まったというニュースである。これを機会に日本のスポーツ環境は大きく変わるであろうし変わらなければならない。その中で、本書で扱っている子どものスポーツ環境をよりよいものにすることが、大会の成功とともに、その後の日本がより活気のある国になっていくためのもっとも重要な課題だと思っている。

読者の皆さんはこの書に書かれている現在の子どもの遊び・運動・スポーツについての問題点と、それを解決するための共著者の提言を十分に理解していただいて、子どもたちの遊び・運動・スポーツ環境を望ましい方向に改善していくことにご努力いただきたいとお願いする次第である。

なお本書では障害のある子どもに対する遊び・運動・スポーツについてはとくに取り上げてはいないが、考え方としては健常者とまったく同じである、というより、障害のある子どもたちにこそ、小さい時から、リハビリとしてだけでなく、できないことが少しでもできるようになるためのツールとして、また仲間たちと触れ合う場として、からだを使った遊び・運動・スポーツを活用していただきたいと思うし、スポーツに触れあったことでスポーツをする、見る楽しみを知って、その中からパラリンピックなどの障害者スポーツの競技者として、将来世界へ羽ばたいていくことも期待している。

最後になるが、この本を見ずに先立たれた青木純一郎さん、加賀谷熈彦さん、加賀谷淳子さんのお三人と、「体育科学センター」時代にいろいろとご指導を賜った猪飼道夫さん、松井秀治さんはじめ亡くなられた多くの先生方、そして前記3冊の出版で編集委員長としてその作成をリードしてくださった広田公一先生や「体育科学センター」の関係者の皆様に、「ようやく約束を果たせました。」という報告とともにこの本を捧げたい。

2014 吉日
編著者を代表して 浅見 俊雄


 
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【目次】

序にかえて  浅見 俊雄

1章 人間、とくに子どもにとっての遊び、運動、スポーツの意義  浅見 俊雄

1. 人間の進化の過程を辿ってみると
2. 2足歩行を選択したことが人の進化を加速させた
3. 子どもは、生後に脳と筋肉との共同作業で正常に発育・発達する
4. 子どもにとっての身体知の発達の大切さを知ろう

2章 子どもの遊び、運動、スポーツの昔と今  浅見 俊雄

1. 遊び、運動、スポーツという言葉の意味
2. からだを動かす知恵、技術の次世代への伝承
3. 私の経験の中での子どもの遊び、運動、スポーツの変容
4. エビデンスから見た子どもの遊び、運動、スポーツの変容

3章 子どもの運動・スポーツの現状と問題点  福永 哲夫

1. 相対発育の観点から見た子どもの体力
2. 発育の個人差を骨年齢との関係で見る
 (1) 暦年齢と骨年齢
 (2) 体格および筋の発達と骨年齢
 (3) 運動能力と骨年齢
3. 発育期の筋腱複合体に見られる弾性特性
4. 子どもの体力は昔に比較して低下している
5. 子どもの運動に関する外国のガイドライン
6. 日本における子どもの運動に関するガイドライン -日本学術会議健康スポーツ分科会(2011年)による提案-

4章 心の発達から遊び、運動、スポーツを考える  森 司朗

1. 最近の子どもの運動能力の低下とこころの発達
2. 子どもの日常行動と運動能力の関係
3. 心身の相関
4. 心の発達と身体の発達
 (1) 自己概念の形成
 (2) 自己概念の形成と性格
 (3) 自己概念の形成と運動
5. 子どもの運動が「できる」とは
 (1) 運動有能感と重要度
 (2) 子どもの運動が「できる」と運動指導
6. 運動と有能感・無力感
 (1) 運動と有能感との関係
 (2) 運動と無力感の関係
7. 運動の好き・嫌い
 (1) 運動の好き・嫌いと能力の認知
 (2) 運動の好き・嫌いと運動の指導
8. 運動の取り組みと目標指向性
9. 運動の不器用さと有能感との関係
10. こころの発達から見た子どもの運動

5章 発育・発達から子どもの遊び、運動、スポーツを考える  佐々木 玲子

1. 動きのはじまり
2. 粗大運動と微細運動
3. 幼少期における基礎的動きの重要性
4. 基本的な動きの発達的特性
 (1) 走る
 (2) 跳ぶ
  1) 立幅跳び
  2) 走り幅跳び
 (3) 投げる
5. 動作リズムの発達
 (1) 時間的動作調整能
 (2) リズミカルな動作
6. 子どもの動きの能力の低下とその対応

6章 子どもの運動・スポーツに関する外科的傷害  福林 徹

1. 中高生の部活動によるスポーツ外傷発生状況
 (1) 全体統計
 (2) 競技種目別特徴
 (3) 怪我の特徴
2. ジュニア期でのエリートサッカー選手のケガ
 (1) ジュニア期の怪我の件数と発生頻度
 (2) 外傷予防プログラムの開発とその導入
3. 代表的スポーツ障害:野球肘

7章 子ども運動・スポーツに関する重篤な内科的疾患  浅見 俊雄

1. 突然死
2. 熱中症

8章 健やかな子どもを育むために  中村 和彦

1. 「子どもの育ち」のリテラシー
 (1) 子どものライフスタイルの崩壊
 (2) 「子どもの問題」ではなく「大人の問題」
 (3) いま、子どもの体が危ない
  1) 体力や運動能力が低下している
  2) 顔面や手首のケガが多い
  3) 動くことが嫌い
  4) 「子どもの育ち」の知識とは
2. 体力・運動能力の低下とその背景
 (1) 体力・運動能力の低下とは
 (2) 日本の子どもは世界でもっとも運動していない
 (3) 基本的な動きが身についていない
 (4) なぜ動きを身につけることが重要なのか
3. 子どもを襲う疲労・肥満・アレルギー
 (1) 「疲れた」が子どもの口癖
 (2) 子どもの健康問題の第1位が生活習慣病
 (3) アレルギー・体温異常は体内からの警告
 (4) いまの子どもの体は「自然に育つ」ことができない
4. 消えた子どもの遊び
 (1) 子どもたちはどこに行ってしまったのか
 (2) 子どもの遊びはどう変わったのか
  1) 外遊び時間の激減
  2) 外遊びから室内遊びへ
  3) 遊び集団の縮小と変化
 (3) そして遊びが消えていった
 (4) 遊びの中で学ぶことができない
 (5) 大人にも「3つの間」を
5. 子どものスポーツの落とし穴
 (1) 子どものスポーツとは
 (2) スポーツ・トランスファーとスポーツ・ドロップアウト
 (3) 子どもの発育発達段階に応じた運動・スポーツのあり方
  1) 乳幼児期(0~2歳ごろ)
  2) 幼児期(3~5歳ごろ)
  3) 小学校低・中学年(6~10歳ごろ)
  4) 小学校高学年(11歳~)
 (4) ライフスタイルに見合ったスポーツの展開を
6. 子どもの育ちを保障する運動・スポーツとは
 (1) 専門的な指導は、幼児の運動能力を伸ばさない
 (2) トップアスリートは、遊び込んで、さまざまなスポーツを経験
 (3) 身体活動の「持ち越し」には幼少年期の遊びが大切
 (4) 「プレー・リーダー」と「プレー・デリバラー」の重要性
 (5) 求められる子どもの運動・スポーツのあり方
7. 子どもの「食」と「睡眠」を考える
 (1) ファストフード・ファミリーレストランが日本の食生活を変えた
 (2) いま家庭の食卓に並ぶもの
 (3) 食事の時間が合わない
 (4) 子どもの食問題「ニワトリ症候群」
 (5) おろそかにされている睡眠
 (6) 子どもたちも夜型で睡眠不足に
 (7) 子どもにとっての睡眠の大切さ
 (8) 驚くべき「メディア漬け」の実態
 (9) 人と直接かかわれない子どもの出現
8. これからの学校体育のあり方
 (1) 新しい学習指導要領とは
 (2) 学習指導要領における体力・運動能力つくり
 (3) 基本的な動きを身につける最適期
 (4) 「基本的な動きを身につける」とは
 (5) 「体つくり運動」の授業づくり
 (6) 「体つくり運動」を日常生活化する
 (7) 子どもの生活をトータルにとらえる取り組みの重要性
9. 体力向上のための取り組み
 (1) 文部科学省で実施している取り組み
  1) 子どもの体力向上実践事業(2004~2006年度)
  2) 体力向上の基礎を培うための幼児期における実践活動の在り方に関する調査研究(2007~2009年度)
  3) 全国体力・運動能力、運動習慣等調査(2008年度~)
 (2) スポーツ関連団体の取り組み
  1) 公益財団法人 日本体育協会
  2) 公益財団法人 日本レクリエーション協会
  3) 一般社団法人 日本トップリーグ連携機構(JTL)
 (3) 学会や民間企業スポーツの取り組み
  1) 日本発育発達学会
  2) (株)ベネッセコーポレーション
  3) (株)イオンファンタジー
  4) (株)ボーネルンド
  5) (株)学研教育みらい
10. 子どもの身体活動ガイドラインの策定
 (1) 子どもの身体活動ガイドラインとは
 (2) 諸外国における子どもの身体活動ガイドライン(運動指針)
  1) アメリカの身体活動ガイドライン
  2) イギリスの身体活動ガイドライン
  3) オーストラリアの身体活動ガイドライン
  4) シンガポールの身体活動ガイドライン
 (3) 日本の身体活動ガイドライン
  1) 公益財団法人 日本体育協会「アクティブ・チャイルド60min.」
  2) 日本学術会議「提言 子どもを元気にする運動・スポーツの適正実施のための基本指針」
  3) 文部科学省「幼児期運動指針」
11. 福島の子どもを元気にする
 (1) 元気な遊びの広場「PEP Kids Koriyama」
 (2) いま、福島の子どもたちは
 (3) 「3.11」以降の福島の子どもの状況
 (4) 日本一元気な子どもに育てたい
  1) 室内運動実技研修会の実施
  2) 子どもを元気にする情報「かわら版」の作成と配布
  3) 子どもの生活実態、体力・運動能力のデータ収集と分
  4) 屋内スポーツ広場「郡山ドーム」の建設構想と運動
12. 日本の子どもを元気にするために:健やかな育みを求めて
 (1) 「子どもの問題」再考
  1) ストレスの増加
  2) 意欲の欠如
  3) 判断力の低下
  4) 工夫する能力の低下
  5) 情緒や感情表出の欠如
  6) 社会性の欠落
 (2) 子どもの問題」の背景
 (3) 「子どもの育ちの人間像」
 (4) 子どもたちの考える人とのかかわり
 (5) 無償の交友、同じ想いをもつということ
 (6) 「子育て」とは・「教育」とは

9章 子どもたちの活動的で生き生きと輝く未来のために  浅見 俊雄

1. 知育・徳育・体育という視点から子どもの教育のあり方を考える
2. 体力を高めることだけが教育の目的ではない
3. 1人でも多くの子どもを運動、スポーツが好きで得意にするために
4. 東京オリンピック・パラリンピック大会に向けて、子どものスポーツへの夢を膨らませよう

 
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