エンドレスウェブ —からだの動きを作りだす筋膜の構造とつながり—
原書名:The Endless Web ~Fascial Anatomy and Physical Reality~ ; R. Louis Schultz & Rosemary Feitis
【監訳】 鈴木 三央(ボバース記念病院リハビリテーション部作業療法士)
【発行日】 未定
【価格】 未定
ブックマーク
【はじめに】
標準的な解剖学の記載による筋-骨格系の概念は,基本的な運動の構造的なモデルを示しています.ただこの考えでは,生体に見られる境界線のない一体化した全体像を示すことができないため,運動を個別の機能に分類しています.身体の一部分が動くと,全身が反応します.機能的には,そのような反応を調整する唯一の組織は,結合組織です.これがこの本で提案したい概念の中心部分です.運動の評価に際し,筋膜/結合組織の解釈を含めることは,実際の身体の全体像に対しさらに正確な情報を提供します.私たちが考えている結合組織の概念は,ロルフィングの非常に多くの成果によるものです.この治療は1930年代の後半にアイダ・ロルフ博士が独自に始めたもので,身体に生かすための方法を発展させてきました.その当時から1950年代までは,軟部組織は変化した状態を維持することはできないといった考えが主流でした.筋・筋膜はそれ自体が,重要な構造とは考えられていなかったようです.骨の整復(整骨,カイロプラクティック)は効果のある唯一の構造の治療でしたが,今日ではマッサージの多くの方法が軟部組織を考慮した治療を実施しています.
これはアイダ・ロルフ博士が臨床の中で確立させた治療の2つのアイデアの内の1つです.もう一方の独創性に富んだ考えは,身体に作用する重力の概念に関係があり,それは身体的構造を確立しながら強化するといった,体を貫く理論上の圧のかかるラインについて述べています.これもまた,結合組織の構成要素につながるものです.つまり,ロルフィングの結合組織の中心になる考えと我々の結合組織の解釈への試みが,この本を作るきっかけになっています.
ロルフィングを用いて身体が変化することは,今までの身体的な構造についての記述では十分な説明はできません.結合組織についての従来の解剖学的な観点では,我々が臨床で観察される動的な変化に関わる全体像を示すのは難しく,私たちが興味を持っていることですが,どの年代でも身体は明らかに構造的な変化の可能性があるということです.機能的に問題のない人でも,標準的な解剖学の記載では,幅広い偏りがあることに直面します.人は,同じ構成要素の器官を持っていても,非常に差があることを感じます.私たちは,この結合組織の変化しやすい特徴は,胎児の中胚葉から成熟した組織への発達によって最も説明することができ,そしてある機能を示すという臨床的な仮説を考えるに至りました.私たちの認識や発想は,合わせると全体で45年以上になりますが,ロルフィングの経験から直接得ています.
人は自分の体を断片的に認めたり,逆に認めなかったりします.全てが悪いまたは全てが良いと言ったりするのは,めったにないようです.むしろ,「お腹が出ている」「膝をよくぶつける」「左足の方が右より大きい」と言ったりします.自分の体について良いと思うような場合は,頭部や両肩の形状が気に入っているときです.女性は靴が似合っていると言ったり,一方で男性は,ジャケットの型が両肩をうまく見せていると言ったりします.
このように人は自分自身を見ているだけでなく,他の人にも同じ印象を持っています.多くの人にとって,幾つかの身体の部位は非常に魅力的です.「足が長い」または「大きな肩」の人が好きです.現代の国の文化では人が職業面,経済面,社会面でそれほど成功していない場合には,たとえ太っていたとしても受け入れられるようです.男性は,歩いたり走ったりまたは他の運動中に骨盤が動き過ぎると,世間の人が女性的な特徴を持ち合わせていることについてどう思っているのか心配します.女性にとっては広い肩は,攻撃性や男らしさを示すものと取られてしまいます.
ほとんど場合身体内部への意識はわずかで,一般的には否定的です.「お腹の調子が良くないです」「膝が痛い」「頚がこっています」「鼻が詰まっています」などです.これはきっと,自分自身のことを良く言うのはふさわしくないという清教徒の観念が持ち越されているためです.自慢をして自惚れてしまうことは,悪いと言う考えです.この考えは,自分自身の考えや身体について良く思っても抑圧してしまい,罪悪感を覚えて終えることになります.
目的が身体面そのものを改善しようとする場合には,興味の中心はあるひとつの事でしかありません.男性は,腕立て伏せをして体重を持ち上げ,両肩を拡げ,女性は下肢と腰周りをやせさせるため下肢を持ち上げます.依然として腰周りや肩は身体の全てを表現しているかのようです.これらの部位は,構造だけでなく身体の全ての部位が相互にどのように使われてきたかの影響によるものです.
この種の連結は傷害の影響を見ると理解しやすくなります.つま先をぶつけると,気づいても気づかなくとも,全身を伝わって頭部まで傷害の影響が広がります.つま先の痛みは,立位を嫌がったり,全身が重心移動する際に,痛みの部分への体重負荷の感覚を避けようとします.怪我をした方へは軽く体重をのせ,怪我をしていない方へは,さらに体重を乗せて歩こうとします.もしこのような歩き方に気がついていないと,歩行は,つま先の痛みがなくなった後でも一側の方に長く体重移動する傾向を維持することになるでしょう.痛みのある下肢は,痛みのあるところから離れたところで収縮し短縮してきます.もしつま先が骨折し,痛みが長期間続いていたら,このようなことは,特に典型的になります.代償(短縮と偏位)は構造のある部分に対して永続的になります.
さらに明らかな例では,上肢と下肢の骨折があります.ギプスを取った後には,重たいギプスの中で可能だった身体的な運動の癖があり,またもう一度骨折した部位を自由に動かすことに対して恐れがあります.再び骨折した上肢を動かそうとすると,あたかもまだギプスを装着しているかのように,半分程度の動かし方になります.
これらの例は,明白な傷害に対するまぎれもない反応です.私たちの体は,計算機の記憶装置のように生活の中で起きた出来事に対する反応が記録さているようです.生きている組織において,記録は,恒常的な繰り返しによって固定され,オーケストラのようにそれぞれの部位が他の部位に関連してきます.幾多の年月を一緒に演奏の経験したメンバーのオーケストラであれば,仮に一つのセクションがキーをはずしたり,テンポを間違えたりしても残りのオーケストラが代償し調整します.
人間の体では,代償は生活の支えとなります.仮に私が骨折した下肢やむち打ちの症の首のために完全に起き上がれないとしたら,ベッドで寝ているでしょう.私は職務を果たすことができないからです.身体は,当面最大限の活動中の支持を提供しながら,いつでもバランスを取ろうとする方向へ向かいます.問題は傷害の後に続いていた代償を直そうとしたときに起こります.この最も共通の例の一つには,人の身体的な構成の一部分となる出生時に見られた心的外傷が維持されている傾向があります.
ロルフィングでのクライアントへの治療や私たち自身の身体で体験したことでの興味のあることは,記録の仕組みです.昔の傷害をいつ,どのようにして記憶されるのでしょうか.アイダ・ロルフ博士の答えは,科学者や医療的な開業医が軽視している身体のシステム,結合組織と筋膜を考察することでした.オーケストラであるという推論を用いると結合組織は骨や筋肉に書き込まれたメモの得点記録であり,器官は道具と言えます.結合組織は記録つまり身体の情報銀行なのです.
ネットカーテンやハンモックを思い浮かべてください.フックが入り組んだ網状の線維の一部分を引っ張ると幾分かでも全ての範囲にわたってゆがみが生じます.結合組織を観察すると,密に組織された方向性はある種の情報システムを連想させます.身体の結合組織の器官や機能そして外見を調べることで,この本では筋膜が生体器官全体にどのように情報を作り出していくかを紹介します.私たちには身体に指示する運動系を一体化させる要素があります.結合組織の網状線維のいずれかの部分が厚くなったり突出したり,あるいはそのままの状態でいたりすると,通常は運動が重たくなります.身体のある部分(特に痛みのある部位)を守る最初に行われる方法は,結局全身の流動性を失うことになります.
おそらく流動性の最も良いイメージは,森を通り抜ける際に音をたてずに葉や小枝を乗り越えて薮を通り過ぎるトラでしょう.身体の全ての部位は互いにバネのように制限することなく作用しあっており,膝関節の骨はつまり上肢の骨などと連結しています.私たちの夢は身体という森,例えそれが木材やスチール,コンクリートに近い状態であっても,しっかりとした足取りで動いていける状態を提供することです.
【推薦のことば】
脳卒中や整形外科疾患の患者さんを治療させてもらう際、私達はアラインメントの評価をします。骨格の配列を意味する用語ですが、アラインメントが良好な配列をしていない原因として全身の筋緊張(姿勢緊張)の異常や筋の短縮、関節の拘縮それに患者さんの身体の使い方(運動のパターン)を問題にし、その修正を治療として行っていきます。その中で私達は、患者さんに問題の箇所を動かそうとしてもらっても、他の部位も一緒に動いてしまう、あるいは私達が患者さんの問題ある身体部位を動かしてもらおうとしても、いろんなところにその動きが過剰につながってしまう、という経験をもっているはずです。これをどのように考えていけば解決への糸口が見つかるのかな、と思っていたときこの本に巡り会いました。R. Louis Schultzが、小児の発達と筋膜の発達の関連、成人の姿勢、運動の分析、解釈に身体の隅々までネットワークされている筋膜と筋の連結をその構造から機能までIda P. Rolfのセオリィをベースに独自の考察を加え解説しています。ちょうどその頃、当院に研修にみえられていたボバース記念病院の作業療法士、鈴木三央氏にこの本を紹介しました。彼は1983年、作業療法士になられると同時にボバース記念病院に入職され、小児と成人の治療で活躍されています。2004年には久保田競先生に師事され博士号を取得、2009年にはボバース国際インストラクターになられ、国内外のリハビリテーション分野で今後を期待されている気鋭です。今回彼の努力によって「エンドレス・ウェブ」日本語訳本が出版される事になりました、リハビリテーション関係者をはじめ、ボディワーカーならびに多くの臨床家の治療に生かしていただきたく推薦します。
大槻利夫
諏訪赤十字病院 理学療法士
ボバース上級講習会講師
【目次】
はじめに
PART Ⅰ 出生前後の早期の発達
1.発生学:結合組織への誘い
2.発生学における初期の発達
3.ヒト胚子の成長の要素
4.中胚葉の組織の発達
5.ヒト胚子の制限と初期の構造の組織化
PART Ⅱ 身体の結合組織
6.出産過程の影響
7.新生児から幼児への発達の移り変わり
8.筋膜の構造:生きている人の脊柱の解剖例
9.運動と重力
10.身体の輪郭
11.情緒とくもの巣のような筋膜:身体意識と反応の様式
PART Ⅲ 身体の支帯(バンド /ストラップ)
12.胸郭のバンド:運動と動作の密接な関係
13.鼠径部のバンドや他のバンドと関連する脊柱の構造と機能
14.眼と顎のバンド
15.径部のバンド,へそのバンド,鼠径部のバンド
PART Ⅳ 身体の構造と機能
16.固有受容感覚:内的な身体意識
17.上部体幹
18.軸性の骨格
19.骨盤と大腿部
20.水平面と垂直面での筋膜構造の組織
21.運動の相反関係
22.関節
PART Ⅴ 身体の構造と機能
23. 結合組織の概念に基づいたボディーワークの実施







