健康なからだの基礎 ~養生<ようせい>の実践~
【はじめに】
日本養生学会から発信する出版事業、「健康なからだの基礎~養生の実践~」がここに出来上がりました。
本会での養生という言葉の捉え方は従来の病気に対する静養を意味する「ようじょう」といった捉え方でなく、生きる力を養うという観点から「養生」という言葉を捉えています。そこで「ようせい」と発音します。本学会は養うべき「生きる力とは何なのか?」ということをからだの原点から問い直すために、伝統的東洋の自然観、人間観、身体観を見直し、それに近代科学の検証を加えることによって現代的に価値あるようせい養生法を再構築したいとその概念、実践法から指導法までをも総合的に研究しています。本学会の出版第1号「からだの原点」では顧問の先生方のご協力も頂きながら、人間存在を生の原点から問い直し、現状と問題に触れながら、これまであまり目を向けられなかった伝統的東洋身体観・身体技法を見直し、現代科学と融和させて、21世紀のグローバルなからだの見方を広げてきました。本書では、前書で切り開いた「からだ・運動・健康の考え方」の立場から、からだ・運動・健康づくりを実践に繋げたいと思っております。長時間に渡って検討した結果、本書は大学体育、健康・運動・スポーツ科学教育を担当している教員達が中心となって執筆し、実用的で啓蒙的なテキストとして、一般の方々はもちろんのこと、大学生を対象とした教科書としても使える「からだの原点」に続く「からだシリーズ・第2弾」として位置づけています。生を養う:養生(ようせい)に求められる基本的な柱の構築への第1歩としての試みです。
現代社会は便利で効率の良い生活、快適さを求めて歩んできましたが、一方では、基本的な生きる力を弱らせてしまってもいます。これまでは日々の生活の中で当然に身につけ、養われてきた生きる力を今、引き出されることも、育てられることもなく、それらがいつの間にか失われてきてしまっているのです。私たちの生活の中で動くことが減り、動きについてのしつけや教育をされることが少なく、その結果、しっかり立ち、歩くことができなくなり、からだの歪みや腰痛を訴える人も増えています。また、高度化、スピード化、複雑化し、コンピュータ化する社会の中で、ストレスが多く、うまく呼吸することもできないひとも増えているのです。今日の生活の中で、人間の最も基本的ないのちを守り、食物を獲得し、子どもを産み、育てるという自然界に生きる力が弱くなっています。私たちが自然の一員であることを忘れ、さらには最も大切な、かけがえのないいのちさえもが軽く扱われ、むやみに失われてしまう状況が起こっています。こうした状況になってもう久しくなりますが、依然として私たちの生活は科学・科学技術の開発・普及、情報化社会の加速度的進展し、生活を見直す暇さえないことが多いのです。私たちは経済性と利便性に追われ、最も大切なひとのいのち、からだ育てを忘れかけてきました。
そこで本書では、からだの原点に戻り、最も基本的なからだの礎について学びたいと考えています。まずは、からだをよく知ることが健康を守り、いのちを大切に生きることに繋がるでしょう。第1章では生きる力のもととなるいのちの成り立ち、からだの礎をつくりだす背景を述べ、第2章では誰にでも共通なからだの礎となるテーマをいくつかとりあげ、からだのメカニズムを知り、実践して調える方法を紹介しております。これらの実践方法は長年、研究を積み上げ、・指導・実践経験の深い方々によって独特な実践法、指導法がつくりだされ、ここに誰でもできるようにわかりやすく紹介されています。本書の構成はオムニバス風に作られています。利用の仕方、使い方としてかならずしも1ページから読まなくとも、必要なテーマに合わせて開き、大いに利用していただきたいと思います。さらに付録として、本会のようせい体操プロジェクトグループで作成した誰でもどこでも身近にできる「ようせい体操version1」を紹介いたします。ようせい体操は健康体操ですが、からだを動かすことによって筋肉運動、心臓循環系機能等のレベルアップだけでなく、自分自身のからだの細胞ひとつずつに語りかけ、意識的にそれぞれがもって生まれた力を引き出していくこと、自分のこころへの語りかけとからだの動きと調和させていきます。心地よく呼吸し、安定した姿勢で立ち、動きます。さらに、自分と自分を包むまわりの存在、つながりを感じ、意識し、それらとのバランス・ハーモニー感覚が自然と身についていけるようにとつくられています。私たちは「どのようにして生きる力を養うか」、誰でもが健康でいきいきと生きるための基礎的なからだ教育を一緒に考えていきたいのです。本書では大学体育、健康・運動・スポーツ科学教育の教員達が中心となって執筆いたしましたが、人間のいのち、からだ、健康を、あるがままの「からだ」を知り、育んでいきたいという願いは皆、誰にでも共通です。学問領域、あらゆる専門分野を超えて、互いに連携しあい、「からだ」育てを学びあいたいものです。本書は私たち自身の問いかけであり、からだ教育に対しての呼びかけでもあります。
本書をつくりあげるにあたりましては多くの方々と出会い、ご協力をいただきました。本学会の発足当初から顧問をお引き受けいただき、応援いただいております帯津良一先生、吉元昭治先生からは貴重な論考を寄せていただきました、感謝申し上げます。最後になりましたが、本書の刊行のきっかけをつくっていただきました(財)アジア学生文化協会理事長 小木曽友先生、(財)神林留学生奨学会 神林章夫先生に多大なご協力をいただきました。感謝申し上げます。
2006年1月
日本養生学会 理事長
横澤 喜久子
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【目次】
1章 いのちの成り立ち
[1]生命の躍動 帯津 良一
- はじめに-生命の躍動-
- いのちの循環
- こころの循環
- からだの循環
- 21世紀の養生
[2]細胞が生きている 跡見 順子
- 「からだは細胞のすみか」
- 水とマグマの惑星・地球が生んだ36億年いのちのシステム
[3]あたま・こころ・からだ 池田 裕恵
- 「からだ」を捉える
- からだで感じる・わかる 動いてわかる
- からだ、それは自我の出発点
- からだがもつ人間性 まなざしの人間性
[4]自然とともに 横澤 喜久子
- 自然とは何か-内なる自然・外なる自然-
- いのちがはぐくまれる
- 人間という自然の営み
- 絶対的順番がある
- 生きるプログラムをもっている
[5]一人ひとり皆ちがう 張 勇
- 自分らしく
- 日本における体質の差異
- 生理的な違い
- 心理的なちがい
- 地域的なちがい
- 個人差の尊重
2章 からだの礎-自分を知る・調える
1. 息する(呼吸法)
[1]心地よく息する 遠藤 卓郎
- 深呼吸-まずはやってみませんか!
- 呼吸法の基本原則
- イメージ呼吸
[2]養生と呼吸法 張 勇
- 吐故納新
- 調息・調心
- 内丹と胎息
- 発声呼吸
- 腹式呼吸
- 踵息法
- いろいろな呼吸の実践法
[3]呼吸のメカニズム 松尾 志郎・跡見 順子
- なぜ呼吸をする必要があるのか
- 肺におけるガス交換と血液輸送
- 口呼吸と鼻呼吸
- 呼吸を駆動するメカニズム
- 呼吸を制御する神経系
2.立つ
[1]姿勢をつくる 立つ 天野 勝弘
- 立つということ
- 立ち方の実践
[2]からだの歪みを知る・直す 和田 勝
- 測定機について
- 背骨の構造
- 姿勢の確認
- 実測データによる比較
- 直す
[3]腰はからだの要-メカニズムを中心に- 渡會 公治
- 立ち方(アライメント)と骨・関節の障害
- アライメントから見た腰痛の説明
- アライメントと立つための構造
- 骨盤の関節、股関節は「腰の関節」
- 足関節の三層構造と下肢の使いすぎ症候群
- 立つトレーニングとしてのスクワット
3.動く
[1]歩く 天野 勝弘
- 歩くということ
- よい歩き方を考える
- ナンバすり足
[2]真似る・学ぶ 張 勇
- 真似ることは学ぶこと
- 「馬王堆導引図」の中に見られる真似
- 「太極拳」の中に見られる真似
- 「五禽戯」の中に見られる真似
- 現代のトレーニングの中に見られる真似
[3]戯れる・遊ぶ 谷 祝子
- 子どもの心を育むもの
- 幼児の遊び
- 遊びとは教育です
- 次世代への遊びの継承
[4]身を守る 瀬戸 謙介
[心得]
- 予防的護身術
- 積極的護身術
[実技]
[5]動くことが生きること 跡見 順子・桜井 隆史
- 動かない文化
- 動きの異なる細胞の共生
- 止まると死
- ‘動く’システムをつくった
- タンパク質のファイバータンパク質システム
- からだという住処の中で細胞社会/組織を維持する
- ストレッチは細胞によい
- 「走る」のは脳・生命システム活性化
- 動く中で脳が発達し、維持され、自分を識ってゆく
4.食べる 吉元 昭治
- 食の歴史
- 食と養生
- 医食同源
- 気と味
- 身土不二
- 中国料理の特徴
- 軽身
- 素食
- 食治
- 食あたり
- 現代の食から
- サプリメント
5.眠る・休む
[1]寝方の工夫 遠藤 卓郎
- 睡眠の工夫
- 良い眠りには安心が必要
- まずは環境を整える
- からだを綺麗にしてから寝る
- からだを癒しのモードにするやり方
- こころを綺麗に
[2]こころを調え安らぐメカニズム 平工 志穂
- 生きていることはストレスを受けること
- こころとからだは一体不可分
- 運動はこころを動かす
- 運動は脳機能にも働きかける
- こころをコントロールする方法
ようせい体操 ようせい体操プロジェクトグループ
COLUMN 久保 隆彦
- フィードバックしよう、3つの気づき
- 高度文明社会が生活習慣病を生み出す
- 命はぐくむ治癒力(中国に学ぶ)
- 授業からのフィードバック
- もう一度見直そう自分のからだとこころ(フィードバック)
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